全国の会

2023-03-30掲載

伊藤千代子顕彰運動と畑田重夫先生
―「畑田重夫記念・映画製作を支援する全国の会」発足にあたって

2022年12月22日 事務局・藤田 廣登
数奇な出会い

 高校卒の私が東京・荒川区にあった無機化学工場でエンジニアとして働き、労働組合運動に参加、配転攻撃で大阪支店、次いで名古屋営業所へと配転されていた1968年、 畑田先生から名古屋駅に呼び出しがあり、「こんど労働者教育協会で働いてもらいたい」と要請され、大阪での学習運動の経験が生かされるならとお受けしました。

 こうして、労教協・学習の友社で70年安保学習運動に踏み込み、その先頭に立たれた先生の出版物の編集や学習会同行などを手伝いました。

伊藤千代子との出会い

 95年、かねて郷里の伊藤千代子の事蹟に関心持つ中で、茅野市の元市議・藤森明氏と知り合い、氏の調査研究を学習友社から 『こころざしいまに生きて』として出版を手伝いました。

 その出版記念集会(諏訪)の席上、顕彰碑建立が議決され、97年7月21日、 千代子の誕生日に除幕しました。

 畑田先生は、この時、在京での募金活動の呼びかけ人となっていただき、今世紀に続く「伊藤千代子の会(在京)」会長を引受けて下さました。全労連会館の2階ホールを埋め尽くす記念の集いなどでは、必ず激励の挨拶を欠かしませんでした。

 藤森氏の急逝を受けて千代子研究の課題が私に移行した時も、お会いするたびに激励を受け、拙著『時代の証言者伊藤千代子の生涯』(2005年) の出版の折にも推薦の言葉をいただくなど、先生自身が並々ならぬ千代子への関心を持続されていました。

映画「わが青春つきるとも」製作運動の中へ

 2019年、伊藤千代子の生涯の映画化企画が本格化しました。この企画段階では、5000万円を超える巨大な製作資金をどうやって創り出すかが問題視されました。

  わが国の民主的な映画上映運動組織の多くが、この無名に近い女性の映像化を困難視したため、これまで通例とされてきた全国一律の「製作協力券」方式はとらず、 全国で募金活動をはじめる中で、畑田夫先生はじめ多くの民主的人士と諸組織の呼びかけで「製作を支援する会」を2019年発足させました。

 先生は、「長」と名の付く役職を少しずつ整理してこられていたにも関わらず、その代表職を快く引き受けて下さいました。

 先生の生涯は、皆さんよくご承知のように「民主的人士を育てる(創り・残す)」ことにあり、その人望と学識豊かな進歩性によって乞われて組織の「長」についてきましたが、 必要な時期に若手に譲ることをモットーに実践されてきていました。

 最後まで残したのは、出身地・信州の進歩と革新の伝統をこよなく愛した証として「民主長野県人会・会長」のみでした(畑田重夫氏の旧姓は藤枝。 藤枝家の先祖は飯田藩主の弓術師範)。

 畑田先生が労働者教育協会にあって全国の安保学習運動で中心的役割を担っていた時代、 労働運動分野の理論構築と学習運動講師活動の双璧をなしておられた谷川巌氏(戦前、無産者新聞編集部、日本反帝同盟書記長。戦後、私鉄総連書記局員。1989没)がいました。

 その谷川氏は、東京帝大卒業式を治安維持法検挙留置で迎え、それが原因で長兄の婚約が破談となり、 骨肉の情にほだされ一度だけ運動からの離脱を余儀なくされ、氏はそれを恥じて、戦後民主運動の「長」という役職に就くことをすべて断るという峻厳な人生を貫きました。

 畑田先生は谷川氏のその徳を重んじて、自らは別の角度から出処進退の基準を設けられていました。

 こうした中でも、困難な「映画製作運動」にかかわることについて熟慮、無名の伊藤千代子を世に出すことにつながる意義を理解され、 「私の名前が役立つなら」と快諾され、コロナ禍の下で静岡市清水からの全国発信の形でご援助を頂きました。

 昨年4月2日の完成記念試写会から続く怒涛のような全国的上映運動の発展を電話口で喜んで下さいました。残念なことに、 「鑑賞用DVD」をお預けしましたが、コロナ禍の下で入・退院を繰り返される状態が続き、ついに鑑賞の機会を失ってしまいました。

畑田重夫先生は、2022年11月22日、99歳の波乱の生涯を閉じました。

 2022年12月22日開催された「映画運動全国交流会」で、先生亡き後の人事を検討し、この「会」の活動期限が25年4月(上映債権者の上映権期限)迄となること、 当面の主な活動が事務局を中心にした「上映権者との連絡・調整・広報など」となることから、敢えて「後任会長」を選ばず、 畑田先生の果たされた功績を称え、名称を「畑田重夫記念『映画・わが青春つきるとも―伊藤千代子の生涯』製作を支援する全国の会」(略称・全国の会)と呼称することとし、 先生の遺徳を次代に伝えていくこととしました。

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